「わ、分かったから! ちょっと離れて!」

「え~」


慎くんの頬をぐいぐい押して距離をとってから、私はまた早歩きになる。

だけど足の長い慎くんはすぐに追いついてきて、隣に並ぶ。


「それじゃあ、家まで手つないで帰ろ」


慎くんの大きな手のひらが、私の左手を包み込んだ。

どうせまた、私の反応を見て揶揄おうとしてるんだろうなって、そう思いながら隣を見上げてみた。

だけど、私を見下ろす慎くんが、すごく幸せそうな顔で笑っているように見えたから。


(っ、そんな顔して笑うのは、ずるいよ……)


――胸がくすぐったくなるような、甘やかな痺れに、私はそれ以上言葉を返すこともできずに黙って歩いた。


家に着くまで、繋がれた手が離れることはなかった。