「千夏子さん、おはようございます」
「あ、玲くん。おはよう」
杉下さんとのファーストインパクトを思い出していれば、背後から足音が聞こえてきた。
にこやかに朝の挨拶をしてくれた金髪の彼は、藤春玲くん。
私より一つ年下の玲くんは、跡取り候補たちの中で唯一、純粋に友好的な態度で接してくれる男の子だ。
一昨日の挨拶の時は、名前と年齢だけ言ってすぐにそっぽを向かれてしまったけど、あの時は緊張していたから、つい素っ気なくなっちゃったんだって。
昨日の朝、玲くん本人が、すごく申し訳なさそうな顔をしながら謝ってくれたんだ。
「洗濯物を干すんですよね? 俺も手伝います」
「え、量もそんなに多くないし、大丈夫だよ?」
「いえ、俺が少しでも千夏子さんの役に立ちたいんです。こんな男所帯で、しかもヤクザの家だなんて、色々と不安ですよね? 何かあれば、いつでも俺を頼ってくださいね」
ニコリと向けられた笑顔がまぶしすぎて、思わず手のひらを顔の前にかざしてしまう。



