「お詫びに、こういうのはどう?」
「……何ですか、これ」
「何って、壁ドン? あと何だっけ、顎クイ? 女子はこういうのが好きなんじゃねーの?」
パックジュースを下に置いた由紀さんは、左手を壁について、右手で私の顎を持ち上げて、至近距離で見つめてくる。
由紀さんが愛用しているっていう香水の、甘いシトラスの香りが、ふわりと漂ってくる。
「……あの、残念ながら、私もあんまり少女漫画を読むわけじゃないので……よく分からないです」
「え~、マジで? 他の女の子たちにやったら、み~んな顔赤らめて喜んでくれると思うんだけどなぁ。つーか千夏子ちゃんは、もうちょっと反応してくれてもよくね?」
由紀さんは無反応の私を見て興味を失ったらしく、つまらなそうな顔をして離れていく。



