大きな声で名前を呼ばれて、ビクリと身体を震わせてしまう。

顔を上げれば、眉根を寄せて怖い顔をしたお父さんと目が合う。


「いいかい? 二度とそんなこと言うんじゃない」


――お父さんがこんなに怒っているところ、はじめて見るかもしれない。


「っ、もういい」

「待ちなさい、千夏子!」


私は、この場から逃げ出した。

走っていたら廊下で誰かとぶつかりかけたけど、顔を上げることができなかった。

玄関で靴を履いて、外に飛び出す。


走って走って、近くの公園まできたところでようやく足を止めた。


「……お父さんの、バカ」


ポツリと呟いたら、涙がこぼれてきた。

うつむいて泣いていれば、後ろから誰かが歩いてくる足音がする。