「し、失礼します」
入ってきたのは、桐野江家の舎弟の一人である鈴木だった。
何やらひどく焦っている様子の彼は、よく見れば黒いスーツが土で汚れているし、顔面も殴られたように痛々しく腫れている。
「何だよ、んなに慌てて。これから夕飯だって時によぉ」
「その顔、どうしたの? まさか他の組の奴らに?」
由紀と尊に尋ねられた鈴木は、深く頭を下げて謝罪する。
「っ、申し訳ありません。自分、千夏子さんの買い物の付き添いをしていたんですが、その帰り道に……知らない男たちに襲われまして」
「「……は?」」
瞬間、各々が殺気立った顔になった。
視線を一身に受けている鈴木は、その覇気にあてられて、今にも倒れてしまいそうだ。
「それで、千夏子はどこにいるわけ?」
「そ、それが……」
慎に問いかけられた鈴木が顔を上げたタイミングで、廊下から別の足音が近づいてくる。



