「あ~、確かに、そこんとこ深く考えてなかったわ。嫁候補としてこの家にきたってことは、千夏子ちゃんと結婚する奴が桐野江組を継ぐことになんのか?」

「俺はそう思ってたけど……まぁ、詳しいことは改めて組長に聞いてみた方がいいかもしれないね」


そう締めた尊の言葉で、この話は保留となった。

何とも言えない沈黙が一瞬流れたが、そんな空気を換えるかのように、尊が再び口を開く。


「そういえば千夏子ちゃん、下りてこないね。まだ寝てるのかな?」

「昨日、誰かさんが揶揄ったりしたせいで、寝不足だったんじゃねーの?」


由紀は尊を見つめてニヤリと笑う。

しかし、尊が千夏子の額にキスをしたことなど他の面々は知らないので、どうして由紀が尊に含みのある笑みを向けているのか分からず、訝しそうな顔をしている。


――その時。

ドタバタと慌しい足音が聞こえてきた。

近づいてきた音は大広間の前でピタリと止まる。