そんな私の思いが通じたのかもしれない。
由紀さんは優しい顔でにこりと笑いながら「あれ、人違いだった?」と言ってくれる。
そして、なぜか顔を近づけてきた。
「……一緒に住んでるってこと、ここでバラしちゃってもいいんだけどなぁ」
「あ、由紀先輩! お疲れ様です!」
耳元で囁かれた言葉に、知らない人ですよ作戦は即座に中止することにした。
そこそこの顔見知りの先輩という設定に変更して、挨拶をする。
「ん~、合宿おつかれさん」
「あはは、ありがとうございます」
「俺らももう帰るからさ――またあとで」
最後の言葉は小声で言った由紀さんは、私の頭を軽く撫でて行ってしまった。
目が合った玲くんも、にこやかに笑いながら手を振ってくれる。
私も小さく手を振り返してから、突き刺さる視線から逃げるようにしてバスに乗りこんだ。



