「……はひひてふのはな?」
「それはこっちのセリフですよ!」
由紀さんの頬っぺたを、両手でぎゅっとつぶしてやった。
タコみたいな顔になった尊さんは、きょとんと目を瞬かせたかと思えば、私の両手をはがしてニッコリと笑みを浮かべる。
「千夏子ちゃん、ムードって言葉は知ってる? こういう場面では目を閉じるのがセオリーじゃないかな」
「あ、あいにく、そういうムードとは縁のない人生を送ってきたものでして!」
――私の勘違いじゃなければ、尊さん、今キスしようとしてたよね?
でも彼氏でもない人と流されてキスするなんて、私は絶対に嫌だ。
っていうか尊さんは、何でキスしようとしてきたんだろう? ……揶揄われてただけなのかな?



