「はい、そうです。だから別に……びっくりはしましたけど、全然気にしてないんです」
「そっか。それはそれで、一哉が複雑そうな顔をしそうではあるけど……」
尊さんは可笑しそうに笑いながら、私の下唇にそっと触れた。
すらりとした指先に、ふにふにと感触を確かめるように何度か押される。
「それじゃあ、ここは俺が奪ってもいい?」
尊さんの手が、そのまま左頬にそえられた。
艶やかな笑み。
濃藍色の瞳に至近距離で射抜かれて、目が逸らせない。
「あの、尊さん? どういう意味です…「黙って」
尊さんの顔が、ゆっくりと近づいてくる。
私はそのまま目を閉じて――なんてことにはならなかった。



