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消灯時間はとっくに過ぎているけど、全然眠れない。
確かどのフロアにも自動販売機があったはずだと思い出した私は、同室の子たちを起こさないように静かに部屋を出た。
「あ、千夏子ちゃん」
自動販売機を目指して歩いていれば、前からやってきたのは尊さんだった。
黒のスウェットを着ていて、髪の毛は少しだけ湿っている。
お風呂上りなのかもしれない。
でも家で見慣れているから、新鮮って感じはあまりしないかも。
「千夏子ちゃんも飲み物を買いにきたの?」
「はい。何だか眠れなくて」
「それじゃあお兄さんが買ってあげるよ。何がいい?」
「え? それじゃあ……お茶をお願いします」
「了解」
ペットボトルのお茶を二本買った尊さんは「買ったお礼ってことで、少しだけおしゃべりに付き合ってよ」と、私をエレベーターホール横にある共用スペースに誘った。
他の宿泊客の姿は見当たらない。
だけど、尊さんと二人でいるところを他の生徒に見られたら大変だから、早めに戻らせてもらおう。
そう思いながら、設置してあるソファ席に、尊さんと並んで腰掛ける。
受け取ったお茶で喉をうるおしていれば、尊さんの口から飛び出たのは予想外の言葉だった。



