「ふはっ、千夏子ちゃん、顔やべーよ。路上に空き缶ポイ捨てしてった奴見てた時みたいな目してっけど」
「……大丈夫です。由紀さんの性癖にドン引いてるだけなので」
「え~、全然大丈夫じゃねーやつじゃん」
私の返答がウケたらしい由紀さんは、肩を震わせて笑っている。
そして、目尻の涙をぬぐいながら話を続ける。
「でもさぁ、俺、本気で好きになった子の我儘なら、マジで何でも叶えてあげたいって思うわけ」
「へぇ、何でもですか?」
「うん。高ぇブランド物のカバンを買ってほしいでも、旅行に連れて行ってほしいでもいいしさ。それこそ……誰々を殺してこい、とかでもな」
――あ。今、空気が変わった。
由紀さんは、読めない表情で笑っている。
細められた目は、まるで私の心中を見透かそうとしているかのようだ。
何かを試されているって、そんな気がする。
突き刺さってくるまなざしを真正面から受け止めて、私は口を開く。



