【番外編更新中】騙し愛され落とし合い ~借金帳消しのために、××の家でお嫁さん候補としての生活を始めます~



「そ、そろそろ本当に帰るぞ! ……千夏子」

「っ、え? 今、名前で呼んでくれたよね?」


一哉くんの背中を慌てて追いかけて、確認の意味も込めて尋ねてみた。

だけど一哉くんに、フイッと視線を逸らされる。

照れているのか、さっきから全然目が合わないし、声もどこか素っ気ない。


「……気のせいじゃねーの?」

「えー、絶対に気のせいじゃない! ……と、思ってる!」


聞き間違いなんかじゃなかったはずだ。

今までは「お前」とか「ババア」とか、そんな呼ばれ方しかされていなかったから……名前で呼んでもらえたことは、認めてもらえたみたいですごく嬉しい。


「ふっ、喜びすぎだろ」


目を輝かせていた私を見た一哉くんは、不機嫌そうな顔を崩して笑った。

私を見つめるまなざしは、とても優しく見えて――子どもたちに向けていたものに似ているなって、そう思った。


一哉くんとの距離が少し縮まったように感じた、そんな秘密の休日の話だ。