「頼む、千夏子。この通りだ……!」


築二十数年のボロアパート。

内職の段ボールが山ほど積まれた部屋で、私に深々と頭を下げているのは、正真正銘、私と血縁関係にある父親だ。

私はポケットティッシュの外袋にチラシを入れる手を止めて、お父さんに向き直る。


「……つまり、私がその家に行って、跡取り候補の誰かしらのお嫁さんになることができれば、借金を帳消しにしてくれるって? そう言われたの?」

「あぁ! 三丁目にある日本家屋の大きなお屋敷は、千夏子も知ってるだろう? あそこの桐野江さんの組長さんが、すごく良い人でなぁ。もしお眼鏡にかなわなくても、ウチに来てくれれば、取り立て期限を延ばせるように掛け合うって言ってくれたんだよ」

「お父さん、それ……また騙されてるんじゃないの?」

「いいや、そんなことないぞ! ほら、証拠の誓約書もある! 一緒に飲んだ時のツーショットもあるが、すごく良い人そうだろう? 公園で項垂れてたお父さんに声を掛けてくれたんだよ。この時も全額奢ってくれてなぁ」


お父さんが見せてくれたスマホの画面では、赤ら顔のお父さんと白髪交じりの黒髪のお爺さんが、肩を組んで笑い合っている。