「しつれいします!」

 彼の隣をすり抜けた。
 ドアを急いで、でも乱暴にならないよう閉める。
 ほーっと、大きく息を吐き出す。

「とりあえず、色気ダダ漏れ攻撃から逃れることができた……」

 と、扉の向こうからアリアが聞こえてくる。
 あ。
 夢の中のアリア、鷹士さんが口ずさんでたんだ……。
 有名な歌だっけ?
 でも、いい声。
 私はうっとりと目を閉じて聴き入る。

「日菜乃ちゃん?」
「はいっ」

 ドアを挟んで聞き惚れていたのがバレたのだろうか。
 呼びかけられて、飛びあがってしまう。

「朝食買ってきたからコーヒーを淹れてくれるかな。メニューはカプチーノでお願いする」
「喜んでっ」

 居酒屋さんみたいな返事をしてしまった。
 ダイニングにダッシュする。

 ……師匠の家でお世話になっていたコーヒーメーカーだったので、操作に悩まずに済んだ。
 コーヒーのいい香りがしてきて、ほっと一息つく。
 同じタイミングで、タオルを頭に被せた鷹士さんが部屋に入ってきた。
 彼のほうに顔を向け。

「コ」 
 ーヒー入りましたよ、と言えなかった。

「ななななんて格好してるんですか!」

 私、多分顔から首まで真っ赤になってるんじゃないだろうか。

 鷹士さんは上半身裸!
 しかも、おざなりに拭いただけらしく、水滴が体についてる。
 いい男が水を滴らせたら、こんなに破壊力凄まじいの?