Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

 雨をしのげる場所というから、てっきり小屋か何かがあるのだろうとオリヴィアは思っていたのに、辿り着いたのはある大きな木の根元だった。

 縦の高さよりも横に幅の広いつくりの木で、大ぶりの葉が頭上で何重にも重なっているお陰か、雨が届かない。いわば、大きな傘が地面に突き立っているような感じだ。

 馬を近くの木に繋いだ二人は、その木の下に立ちながら、雨が過ぎるのを待った。
 雲が唸りをあげ、雨が水飛沫をあげても、その木の下だけは不思議ととても静かで、安らかだった。まるで(まゆ)に護られた蚕になったような気分……。

 問題は、その繭が少しばかり大きすぎることだった。
 オリヴィアはエドモンドの近くに立ちたいのに、エドモンドは幹をはさんだ向こう側にいる。

「…………」
 気温がぐんと下がったせいもあって、オリヴィアは温もりが欲しかった。

 ここには馬を除けば二人しかいなくて、エドモンドもどちらかといえば薄着だ。彼は寒がるそぶりを見せなかったが、この気候である。
 そばに人肌の温もりがあっても困らないだろう……。

 しばらく考え込んだあと、オリヴィアはゆっくりと、しかし確実に、エドモンドの方へ移動しはじめた。
 すると、オリヴィアの動きを察したエドモンドが、素早く横に一歩動いた。
 ──オリヴィアの対極へと。

 エドモンドの一歩が大きく素早かったので、オリヴィアは最初、ただの偶然だと思った。

 む、
 もう一度。

 オリヴィアはまた、するすると、育ちのいい女性独特の優雅な小股でエドモンドの方へ近づいていった。今度こそ近づけただろうとオリヴィアは心の中で喜んだのに、またしてもエドモンドは大きく一歩横にずれた。

 その時やっと、オリヴィアは理解した。

 エドモンドはオリヴィアを避けている!
 雨宿りの木の下で、オリヴィアの隣に立ちたくなくて、逃げ(文字通り)回っているのだ!

 オリヴィアは動悸がするのを感じた。
(どうして?)
 こんな、時くらい。

 隣にいてくれたっていいのに。
 温めてくれたっていいのに。サンドウィッチは食べてくれたのに。逃げることなんてないのに!