Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

 それから間もなく急に空気が湿りだして、オリヴィアはぶるっと身体を震わせた。

 頭上の木々が揺れだし、バサバサという重い音を立てはじめる。
 先に顔を上げたのはエドモンドだった。
 彼は顔をしかめてみせ、手にあったハーブをいささか乱暴に荷袋へ詰めると、オリヴィアの側へ大股で近づいてきた。

「雨になる」
 エドモンドはきっぱりと言った。「それも、強いのが来そうだ。私について来なさい」

「お屋敷に戻るのですか?」
「いや、これは通り雨だ。屋敷に戻るころに私たちはずぶ濡れになって、雨は止んでしまっているだろう。それよりも近くに雨をしのげる場所がある」

 慌てて立ち上がったオリヴィアは、エドモンドにならってハサミとハーブを荷袋へ押し込み、次の彼の指示を待った。

 森の中で雨に降られたとき……どこへ行けばいいのか、何をすればいいのか。そんな知識もオリヴィアにはなかったのだ。
 今朝は一人で森に入るつもりだったことを考えると、そら寒い思いだ。

 オリヴィアが待っていると、エドモンドはおもむろに息を吸い、唇をぎゅっと一文字にして歯を食いしばった。

 そして、「ついて来なさい」ともう一度言うと、颯爽と馬に乗り込んだ。