Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

「ノ……ノースウッド伯爵?」

 その時、オリヴィアはやっと、エドモンドが自分の側にいないことに気が付いた。顔から血の気が引くような気がして、オリヴィアは、辺りを見回しながら慌てて立ち上がった。

 エドモンドがいない!
 お──置いていかれてしまったんだわ!

「ノースウッド伯爵、ひどいです! 一人で来てはいけないと言ったのはあなたなのに!」

 オリヴィアは森に向かって叫んだ。
 行き場のない叫びは先の森に吸い込まれて、こだまさえ返ってこない。オリヴィアは両手で顔を覆って、嫌々をするように(かぶり)を振った。

 涙がこぼれてくる。
 ああ、疎まれているのは分かっていたけれど、一人きりで危険な森に置き去りにされるほどだとは思わなかった。危険な……その……リスが出てくるという森に!

(いや)……おいて、いかないで……」

 オリヴィアは弱々しく声を漏らした。

 急に身体が重く感じる。まるで、ドレスが雨に濡れてしまった後のように。エドモンドに見捨てられたという事実は、思うよりずっとショックだった。オリヴィアは顔を手で覆ったまま、しくしく泣き始めた。