Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

 胸の奥が甘くうずく。
 今すぐ彼女を腕の中に閉じ込めて抱きしめたかった。きつく、強く。

 彼女を自分のものにして、この、魂の奥から湧いてくる不可解な感情の渦の正体を確かめたかった。
 そうするべきではないと分かっていても。


 美しく閑散としたノースウッドの森の昼下がりも、エドモンドに安楽を与えはしなかったので、彼はオリヴィアのサンドウィッチを食べ終えるのに集中することで気を紛らわそうとした。
 その試み自体は成功とは言いがたかったが、オリヴィアは嬉しそうだった。

「この次はもっときちんとしたものを作りますね」
 砂っぽいほうれん草をよけ、パンにチーズだけを乗せて上品に食べ始めるオリヴィアは、さしずめ機嫌のいい森の妖精だ。

 二人は水で薄めたワインを分け合って、ついに昼食を終えた。
 気持ちのいい風が肌をなでる。
 強すぎも弱すぎもしない心地よい日光が降り注いでいる。労働の疲れと食後の気だるさが相まって、どうにも軽い眠気を誘った。

 これほど昼寝に適した気候も、時間も、場所もないのではないだろうか。

 もちろん都会育ちのオリヴィアが、土や芝生の上で寝たことがあるとは思えないが。
 しかし、たとえささやかでも、オリヴィアの「初めて」のなにかに関われるというのは魅力的だった……。

 食べ終わったあとの布ナプキンをバスケットに戻しているオリヴィアを見つめながら、エドモンドは今だけ、自由が許されるような気がしてきた。

 ──彼女の笑顔のために。自分自身のために。