その代わりに、気持ちのいい香りが再びオリヴィアの鼻腔をくすぐった。そのうえ二の腕の付け根にがっしりとした力を感じて、オリヴィアは不思議に思い、しばらくの躊躇のあと……ゆっくりと目を開いた。
「まったく……あなたは私の息を止める才能があるらしい」
という、エドモンドの声が聞こえた。それも、息がかかりそうなほど近くに。
「ノ、ノースウッド伯爵」
オリヴィアはエドモンドの腕に横に抱きかかえられていた。
そう自覚するのに長い時間はいらない。エドモンドの彫りの深い男性的な顔はオリヴィアの目と鼻の先にあって、背はしっかりと彼の腕に支えられている。
助けてくれたのだと、すぐに分かった。
「あ、あの……は、は、離し……」
離してくださいと、オリヴィアは言おうとした。
それは条件反射のようなもので、別にエドモンドの腕が嫌だとか、居心地が悪いから離してくれという意味ではなかった。でも、エドモンドは渋い顔をして眉間に皺を作ると、頭を振った。
「しばらくこうしていなさい。こうしているのが嫌な気持ちは、分かるが」
エドモンドは優しく言った。
エドモンドが、優しく、言った。
オリヴィアは、まだ少しぼんやりとする意識の先に、エドモンドが彼女の帽子の紐を緩めるのを感じた。あごの下で結ばれていたリボンがするりと解かれ、帽子が地面に落ちそうになる。
エドモンドは器用に、オリヴィアを抱いているのとは別の方の手で、帽子のつばを掴んで落とさなかった。
そしてオリヴィアの胸の上に、被せるように、そっと帽子を置く。
一連の動作はとても自然で──オリヴィアの直感が間違っていなければ──とても愛情に溢れた動きだった。
「少し、こうして休んでいなさい。あなたはよく頑張った」
そう言うと、エドモンドはオリヴィアを抱いて立ったまま、空を仰いだ。
実際の空は木の葉に隠れていて、見えるのはただ背の高い木々の枝ばかりだったが、エドモンドはしばらくそうして上の方を見ていた。
鳥が枝から飛び立って、カサカサと木を揺らすのが聞こえる。
木漏れ日は風にしたがって踊り、ふたりを気紛れに照らしていた。静かで平和な昼下がり。
「まったく……あなたは私の息を止める才能があるらしい」
という、エドモンドの声が聞こえた。それも、息がかかりそうなほど近くに。
「ノ、ノースウッド伯爵」
オリヴィアはエドモンドの腕に横に抱きかかえられていた。
そう自覚するのに長い時間はいらない。エドモンドの彫りの深い男性的な顔はオリヴィアの目と鼻の先にあって、背はしっかりと彼の腕に支えられている。
助けてくれたのだと、すぐに分かった。
「あ、あの……は、は、離し……」
離してくださいと、オリヴィアは言おうとした。
それは条件反射のようなもので、別にエドモンドの腕が嫌だとか、居心地が悪いから離してくれという意味ではなかった。でも、エドモンドは渋い顔をして眉間に皺を作ると、頭を振った。
「しばらくこうしていなさい。こうしているのが嫌な気持ちは、分かるが」
エドモンドは優しく言った。
エドモンドが、優しく、言った。
オリヴィアは、まだ少しぼんやりとする意識の先に、エドモンドが彼女の帽子の紐を緩めるのを感じた。あごの下で結ばれていたリボンがするりと解かれ、帽子が地面に落ちそうになる。
エドモンドは器用に、オリヴィアを抱いているのとは別の方の手で、帽子のつばを掴んで落とさなかった。
そしてオリヴィアの胸の上に、被せるように、そっと帽子を置く。
一連の動作はとても自然で──オリヴィアの直感が間違っていなければ──とても愛情に溢れた動きだった。
「少し、こうして休んでいなさい。あなたはよく頑張った」
そう言うと、エドモンドはオリヴィアを抱いて立ったまま、空を仰いだ。
実際の空は木の葉に隠れていて、見えるのはただ背の高い木々の枝ばかりだったが、エドモンドはしばらくそうして上の方を見ていた。
鳥が枝から飛び立って、カサカサと木を揺らすのが聞こえる。
木漏れ日は風にしたがって踊り、ふたりを気紛れに照らしていた。静かで平和な昼下がり。


