エドモンドは静かにオリヴィアを見下ろしていた。
身動きもまばたきもせず、まるで森の木々の一部になったように立ち尽くしている。動くのは風に揺れてなびく彼の髪だけだった。
わずかに茶色の混じったエドモンドの濃い金髪は、生気に溢れた艶やかさを持っており、その色合いも相まって……淹れたての紅茶のようにオリヴィアの心をくすぐり、誘う。
彼からはとてもいい香りがする、ということにオリヴィアは今気付いた。
緑と土の匂いと、清潔な石鹸の香り。
まぁ、石鹸に関しては、先日オリヴィアが間違えて商人に注文しすぎてしまったせいで、屋敷中に匂いがたちこめているせいもあるのだろうけれど。
とにかく、エドモンドの視線はいっそ頑固なくらい強くオリヴィアに固定されていて、動かない。眼力で物が燃やせるとしたら、きっとオリヴィアはもう灰になっているだろう。
オリヴィアも熱心に彼を見つめ返した。
「ノースウッド伯爵……。そんなに睨まなくても、なにも変なものは入れてませんから、安心してください」
「睨んでいるわけではない。昼食について心配しているわけでも」
「では、行きましょう。歩いていける距離でしょうか?」
オリヴィアはとにかく気丈なところをエドモンドに見せたくて、彼の腕から手を離すと、前に進もうとスカートの裾を持ち上げて歩き出した。
──急にくらりと立ちくらみがして、膝から崩れ落ちそうになったのはその時だ。
「……っ」
倒れる! しかもエドモンドの目の前で。
オリヴィアは息を呑み、最悪の瞬間を覚悟した。──ああ、やはり『使えない』脆弱な都会の小娘だと彼に呆れられる。
倒れてはだめ。でも、立っていられない……。
貧血に意識を手放さざるをえなかったオリヴィアは、そのまま目を閉じた。
また服を汚してしまうと、そんなことをぼんやり遠くに思いながら、身体が土の上に投げ出される瞬間を待つ。しかし、どういうわけか、その瞬間はなかなか来なかった。
身動きもまばたきもせず、まるで森の木々の一部になったように立ち尽くしている。動くのは風に揺れてなびく彼の髪だけだった。
わずかに茶色の混じったエドモンドの濃い金髪は、生気に溢れた艶やかさを持っており、その色合いも相まって……淹れたての紅茶のようにオリヴィアの心をくすぐり、誘う。
彼からはとてもいい香りがする、ということにオリヴィアは今気付いた。
緑と土の匂いと、清潔な石鹸の香り。
まぁ、石鹸に関しては、先日オリヴィアが間違えて商人に注文しすぎてしまったせいで、屋敷中に匂いがたちこめているせいもあるのだろうけれど。
とにかく、エドモンドの視線はいっそ頑固なくらい強くオリヴィアに固定されていて、動かない。眼力で物が燃やせるとしたら、きっとオリヴィアはもう灰になっているだろう。
オリヴィアも熱心に彼を見つめ返した。
「ノースウッド伯爵……。そんなに睨まなくても、なにも変なものは入れてませんから、安心してください」
「睨んでいるわけではない。昼食について心配しているわけでも」
「では、行きましょう。歩いていける距離でしょうか?」
オリヴィアはとにかく気丈なところをエドモンドに見せたくて、彼の腕から手を離すと、前に進もうとスカートの裾を持ち上げて歩き出した。
──急にくらりと立ちくらみがして、膝から崩れ落ちそうになったのはその時だ。
「……っ」
倒れる! しかもエドモンドの目の前で。
オリヴィアは息を呑み、最悪の瞬間を覚悟した。──ああ、やはり『使えない』脆弱な都会の小娘だと彼に呆れられる。
倒れてはだめ。でも、立っていられない……。
貧血に意識を手放さざるをえなかったオリヴィアは、そのまま目を閉じた。
また服を汚してしまうと、そんなことをぼんやり遠くに思いながら、身体が土の上に投げ出される瞬間を待つ。しかし、どういうわけか、その瞬間はなかなか来なかった。


