Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

(……え……と)
 オリヴィアも動けなかった。

(朝? 見ていて……くれたの……?)

 朝、オリヴィアがほとんど食べられなかったのは、ローナンでさえ気に留めていなかっただろう。
 ローナンなら、気付けばそう言って心配してくれるはずだ。

 食事時はエドモンドとオリヴィアが顔を合わせる数少ない機会の一つで、エドモンドはいつも厳しい顔をしてオリヴィアを睨んでいるだけだった。
 だから、オリヴィアの様子や具合を心配してくれているようには、とても見えなかったのだ。

 しかし、ローナンでさえ気付かなかったことを、エドモンドは気付いていた。

 もしかして……。
 もしかして、だが、あれは別に睨まれていたわけではないのだろうか。そう、例えば、エドモンドは視力に問題があるとか……。

「ノースウッド、伯爵……」
 と、オリヴィアはこちらを見ようとしない夫の背中に声をかけた。

 どこか孤独にも見える大きな背中が、さらに強張り、オリヴィアの声に反発するように固まる。
 ──ああ、これだ、とオリヴィアは思った。

 エドモンドは時々、とても寂しく見える。
 背が高くて、逞しくて、アポロンを思わせる精悍で鋭い顔をしている、北の大地の若き領主さま。
 それなのに彼は、時々、迷子になった子供のように寂しそうにみえる。

 そのたび彼は、オリヴィアの心をくすぐるのだ。どうしようもないくらい強く。