Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

 奇跡は、願うよりも前に、それもさも当然のように起こった──。

 オリヴィアは水色の瞳をぱちくりさせながら、食卓を挟んで目の前にいる夫を見つめなおした。エドモンド・バレットかくありき、という感じの厳つい顔がこちらをじっと見ている。

 冗談をやっている雰囲気ではなかった。
 本気だ。
 エドモンドは本気で、オリヴィアを森へ誘っているのだ。

 正確なところ『誘い』とは違うのだろうが、とにかく、一緒に森へ行こうという趣旨のことを言っているのには違いない。

「私……」
 と、オリヴィアは震える声を絞り出した。

「嬉しいです。昼前に厩舎へうかがえばいいのですか?」
「私が玄関まで迎えに行こう。マギーに言って、昼食のバスケットを用意させておきなさい」

 エドモンドは唸るように答えた。
 昼食のバスケット! それを用意しろということは、つまり、オリヴィアの理解が正しければ、一緒に森で昼食を取ろうという意味であるはずだ。

 素晴らしい……突然、絶望の谷からすくい上げられて、天国の雲の上にぽんと乗せられたような気分だった。
 オリヴィアは頬を紅潮させ、仕掛け人形のように何度もうなづいた。