Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

 無事に森まで行ってハーブを摘み帰ってきた武勇伝を話せば、エドモンドも少しはオリヴィアを見直すだろう。

 オリヴィアは実際にハーブ狩りをしたことはなかったが、関連する書物を読んだことがある。挿絵付きで詳しい本だった。間違えて毒草を採ったりしない。きっと。
 まぁ、採ってしまったところで、あとでマギーが見分けてくれるはず……。

「マイ・レディ」
 エドモンドはあらたまった厳しい口調で言った。

 オリヴィアははっと我にかえった。一瞬、誰のことを呼んでいるのか分からなかったが、彼の視線が真っ直ぐこちらに集中しているのに気付いて、自分が呼ばれているのだと理解した。

 いつもの、マダム、とは違う呼び方。
 伯爵の妻であることに対する敬称だ。オリヴィアはどきどきして、背筋を正した。

「はい、ノースウッド伯爵」
「あなたは一人で森へ入ったりはしない。ローナンと二人でも、だ」
「まぁ……」

 オリヴィアは肩を落とした……。
 こんな風に、厳しい命令口調を受けるのは慣れている。父・ジギー・リッチモンドがそうだったからだ。しかし今回は、いささか理不尽に思えて、胸が痛んだ。せっかくの妙案だったのに。

 それに約束のひと月は着々と近づいてきているのにと、オリヴィアは絶望さえ覚えてきた。
 隣では、ローナンがまた判然としない顔で口をへの字に曲げている。

「しかし」
 エドモンドは静かに言った。
 その瞳は、まぶしいくらいにオリヴィアを凝視している。

「どうしても行きたいなら、昼前まで待ちなさい。私が一緒に行こう」