Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

 絶世の美女として国中にその名をとどろかせるミス・シェリーは、オリヴィアの四つ年上であるにも関わらず今だ独身で、噂によればかなり奔放な生き方を楽しんでいる女傑という話だった。

 姉が未婚では妹に結婚話がいくのが遅れるのも当然だし、シェリーのような良くも悪くも有名な美女の影では、どんな名花も霞んでしまうのだろう。
 リッチモンドの思惑も理由のひとつに数えられる。

 『リッチ』モンドとはよく言ったものだ。
 この家は確かに、金だけで現在の地位を築いていた。

 現当主ジギー・リッチモンドはサーではあるが貴族ではない。文字通りただの成金で、金で男爵位を買っている。娘を真なる貴族に嫁がせたいと考えるのはごく自然な成り行きであり、たとえタイトルだけでも伯爵をうたうエドモンドに白羽の矢が立った理由も、分からないではない。
 独身の伯爵などほぼ絶滅危惧種で、いても、愛人ならともかく正妻には、成金の娘をすすんで迎え入れることは少ないだろう。

 エドモンドはたぶんに一種の消去法によって選ばれたのだ。
「この公爵は既婚、この伯爵もこの侯爵も既婚、残るはこいつだけだ」と。

 一方エドモンドにも、この結婚話を受け入れる理由があった。
 今年三十六歳になるエドモンド・バレットは、独身でい続けることへの周囲からの風当たりが、さすがに御しきれないレベルになってきたのだ。

 しかし、適当に名目だけの妻を選ぼうにも、まともな貴族の未婚女性はノースウッドに来たがらなかった。
 理由は察してしかるべく。
 あの荒野で生きていこうと思うのは、そこに生を受けた者たちくらいだ。それでも逃げ出す者もいるのだから、彼女らを根性なしと責めるわけにはいくまい。
 そんな中で、オリヴィアは最適に思えた。
 ──本人を垣間見るまでは。