Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

「おはようございます、ノースウッド伯爵」

 オリヴィアは微笑みながら朝の挨拶をした。同時にわずかに腰を落とす仕草をして、夫に敬意を表す。
 国中の男が夢見る、理想的な妻の姿がそこにあった。

 エドモンドは唸りたい気分を抑えながら、自らも少しだけ頭を下げて、答えた。

「おはよう、マダム」
 単調なエドモンドの挨拶に、オリヴィアの水色の瞳が悲しそうに揺れた。

 一瞬……泣かれるのかと思った。
 しかし、オリヴィアは気丈にももう一度微笑を取り戻して、ローナンに向けて挨拶した。

「おはようございます、ローナン」
「おはよう義姉上。あなたは毎朝毎朝ますます綺麗になっていくね。五十年後が楽しみだ」

 そして、最近の習慣どおりローナンの隣の席へつく。

 エドモンドは今朝も、そんなオリヴィアの一挙一動を厳しい目で見つめ続けていた。オリヴィアも時々、そんなエドモンドに視線を向ける。
 そして、頑張って微笑んでみせるのだが、夫の無反応に戸惑ってすぐに目をそらしてしまう。

 ローナンはそんな緊張した食卓を和ませようと、陽気に冗談を飛ばす。
 まだ十日なのに、うんざりするほどお馴染みになってきている、バレット家の朝食の光景だ。