Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

「ねぇ、兄さん。昨日、仕事がはかどったせいで今日は少し暇なんだ……」
 ローナンは出来るだけ笑いをかみ殺しながら話した。
「空いてる時間、義姉さんの手伝いをしようと思うんだけど、どうかな?」

 すると、緑の瞳をカッと燃やしたエドモンドが、素早くローナンを見据える。

 そのあまりにも分かりやすい反応に、ローナンは苦笑を禁じえない。
 さらにタチが悪いことに、エドモンドは分かっているのだ。自身の反応が度を越していて──まさに、嫉妬に狂っている男そのものであると。

「およばない」
 エドモンドは喉の奥から押し出すような声で言った。「彼女に助けが必要なら、私がする」

「ふうん……」
 疑い深そうにローナンが答える。

 その時、
 上品に廊下を歩いてくる足音が聞こえた。

 育ちのいい女性独特の、ワルツを思わせる小刻みな足音……。兄弟二人は吸い込まれるように食堂の入口へ顔を向けた。

 オリヴィアはすぐに現れた。
 若草色の細身なドレスに身を包み、髪を後ろで束ねてネットを被せている。はっと息を呑むほど美しかった。
 疲れからかますます白く見える肌は透き通るようで、触れたら消えてしまいそうなほど幻想的に見えた。

 そうだ……エドモンドが触れれば、彼女はいつか消えてしまう。