Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

 むっつりとした顔で豪快にパンを齧っているエドモンドを前に、ローナンはその貴重な卵に手を伸ばす。
 するとその瞬間、兄がぎろりと厳しい視線を投げてよこしてきたが、弟はただ肩をすくめるばかりだ。
 だってどうしろというのだ。

 オリヴィアがノースウッド伯爵領バレット家にやってきて、十日になろうとしている。

 そして、バレット家の屋敷は早くもオリヴィア色に染まり始めてきていた……彼女の困った努力と、天真爛漫な魅力は、灰色だったバレット家の屋敷に新風を吹かせ、明るく染め上げている。

 マギーは新しい女主人を歓迎しているようだった。
 屋敷のあちこちでオリヴィアの声が聞こえた。

 笑ったり、驚いたり、泣いたりしている。

 オリヴィアは明らかに、スプーンより重いものを持ったことがない種類の都会のお嬢さまで、ノースウッドのような田舎屋敷で采配を振るうための知識は、塵ほども持ち合わせていなかった。
 しかし、彼女の魂は、どこかこの土地の匂いがする。

 辛抱強く春を待てる女だ。
 冬に冷たく凍える屋敷を、笑顔で暖めることの出来る女性。