Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

「私はやはり、貴女は帰るべきだと思っている」
 しばらくの沈黙のあと、エドモンドはそう言った。「言ったはずだ……私が貴女を帰したいのは、貴女が仕事をできないからではない」

「でも、理由は教えてくれないのですね」
 オリヴィアはゆっくりとした口調でたずねた。
 エドモンドからの答えはなかった。

 たまらなくなって、オリヴィアは後ろを振り返った。
 すると、エドモンドは思ったよりもずっとオリヴィアの近くにいた。 

 夕日をその身に受けて、エドモンドの濃い金髪が秋の穂のように輝いている。深い緑の瞳に、オレンジの夕日が染み込んでいる。
 ──堂々たる、若き領主の姿だった。

 でも、その表情は明るくない。
 ──寂しそう。
 というのが、オリヴィアの受けた印象だった。

 不思議な男性(ひと)だ。
 こんな風に、オリヴィアの心を攫っていくのだから、ひどい人だ。でも、オリヴィアの心は間違いなく(おど)った。

「ひと月」
 オリヴィアはそう言って、自分の手で涙を拭いた。

「約束してくれたはずです。ひと月だけ、私に時間をくれるって。私を見ていてください」