理由は沢山ある。
エドモンドの側にいたいと思った。ローナンと仲良くなれそうなのが嬉しかった。老執事に根性なしと呼ばれたのが悔しかった。実家に帰れば、きっと父をますます失望させる……。
でも、倒れそうに疲れきったいま、そのどれもがこの努力に値しないような気がしてくる。
帰りたい。
帰って、社交新聞を読みながら優雅に紅茶を飲んで、庭のバラの心配をすればいいだけの生活に戻りたい……。
オリヴィアは溢れる涙を拭いもせず、ぼんやりと夕日に向かって立ちつくしていた。
その時――
「マダム」
後ろから、エドモンドの声がして、オリヴィアはぴくりと背筋を伸ばした。ずいぶん近くから聞こえる気がする。
でも、オリヴィアは振り返らなかった。
振り返る力がなかったのだ。
「そろそろ屋敷に戻りなさい。私は貴女に、こんな事をしろとまでは言わなかったはずだ」
エドモンドの言葉に、しかしオリヴィアは、夕日を眺めたまま首を横に振った。
「他に、どうすればいいんです? 刺繍をしていれば、あなたに認めてもらえますか?」
「……いいや」
「そうでしょう? だから、頑張ることにしたんです。私はたしかにあなたの仰るとおりのお荷物で……何をしたらいいのか分かりません。でも、他の女主人がする仕事を、ちゃんとしてみようと決めたんです」
前ノースウッド伯爵夫人がしていた仕事をやりたいとマギーに頼んだことは口に出さなかった。
普通に考えれば、それはエドモンドの母なのだ。
エドモンドの側にいたいと思った。ローナンと仲良くなれそうなのが嬉しかった。老執事に根性なしと呼ばれたのが悔しかった。実家に帰れば、きっと父をますます失望させる……。
でも、倒れそうに疲れきったいま、そのどれもがこの努力に値しないような気がしてくる。
帰りたい。
帰って、社交新聞を読みながら優雅に紅茶を飲んで、庭のバラの心配をすればいいだけの生活に戻りたい……。
オリヴィアは溢れる涙を拭いもせず、ぼんやりと夕日に向かって立ちつくしていた。
その時――
「マダム」
後ろから、エドモンドの声がして、オリヴィアはぴくりと背筋を伸ばした。ずいぶん近くから聞こえる気がする。
でも、オリヴィアは振り返らなかった。
振り返る力がなかったのだ。
「そろそろ屋敷に戻りなさい。私は貴女に、こんな事をしろとまでは言わなかったはずだ」
エドモンドの言葉に、しかしオリヴィアは、夕日を眺めたまま首を横に振った。
「他に、どうすればいいんです? 刺繍をしていれば、あなたに認めてもらえますか?」
「……いいや」
「そうでしょう? だから、頑張ることにしたんです。私はたしかにあなたの仰るとおりのお荷物で……何をしたらいいのか分かりません。でも、他の女主人がする仕事を、ちゃんとしてみようと決めたんです」
前ノースウッド伯爵夫人がしていた仕事をやりたいとマギーに頼んだことは口に出さなかった。
普通に考えれば、それはエドモンドの母なのだ。


