Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜







 夕焼けが眩しかった。
 広大な牧草地に続く、やせた森──その奥に入っていこうとする橙色の太陽の、なんと大きいこと。
 オリヴィアは立ち尽くし、そして、夕日を眺めながら涙を流した。

 身体中が痛い。
 筋肉という筋肉が悲鳴をあげ、あちこちに出来たすり傷が、ひりひりと痛む。

 風が──都会とは違い、一切障害物のない生の風だ──吹きつけ、オリヴィアの不安定な足元をすくってしまいそうだった。

 手にはむしりかけの雑草がある。
 雑草とはいえ、先が鋭利で、何度も指を切ってしまった。

 あれからオリヴィアは、洗濯女について川で洗濯の手伝いをしに行き、川に落ちた。
 幸い浅場だったので大事には至らなかったが、なぜかひどいショックを受けた。

 そして、午後の調理場の手伝い。
 オリヴィアは生まれてはじめてパンが焼かれる経過を見た。……パンは、木になっているわけではなかったのだ。
 野菜の土を洗い落として、ジャガイモの皮をむいて。すべてオリヴィアには初めての体験だ。
 そして、日が落ち始めると、家庭菜園の雑草抜き……。

 オリヴィアはくたくただったが、マギーによれば、前ノースウッド伯爵夫人がこなしていて仕事は、この倍近くあったという。

 週の別の日には、屋敷にやってくる行商人から必要なものを買い付けなければならない。
 そのためのリストを作り、忘れないように洗濯石鹸や塩や香辛料を注文しなければいけないし、間違って腐った肉や魚をつかまされないように気をつけなければいけない……らしい。

 他の家畜の世話。
 屋敷の掃除の管理。

(で……でも……こんな事をして……)

 エドモンドの心が掴めるのだろうか。
 彼と一緒に生きる資格を、得られるのだろうか。