Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

 旅は長かった。
 行きは一人だったから一泊ですんだものを、帰りは二人になっているものだから、倍以上の時間が掛かっている。
 そのうえ旅の伴になったのは女性で、ちょっと馬車が揺れただけでポンポンと座席の上で跳ねてしまうような華奢で小さな身体の持ち主だった。
 さらに言えば、このか細い少女は、エドモンドの生涯の伴になったのだ。──なってしまった、のだ。

 彼女は小柄で、長く柔らかい黒髪を持ち、瞳の色は薄い青で、息を呑むような白い肌をしていた。
 顔の作りは繊細で、ちょうど式を挙げた教会に彼女そっくりの天使像があったのを覚えている。そんな可愛らしい童顔と対照的な豊かな胸元は、そこに存在するだけで男を誘惑した。

 エドモンドは、なぜ彼女のような女性が今日まで売れ残っていたのか、不思議でしかたなかった。

 彼が望んだものは、潤沢な持参金と、田舎暮らしに文句を言わないだけの忍耐強さと、我慢できる程度に美しく『ない』容姿と、それなりに大人であることだけだ。
 しかし目の前にちょこんと座っているこの少女ときたら、持参金以外に当てはまる項目は一つもない。

 彼女はノースウッドの屋敷で生き延びるには都会っ子すぎ、屋敷の女主人として采配を振るうには幼すぎ、エドモンドの性欲を我慢させるには美しすぎるように思えた。

 彼女がエドモンドに差し出された理由は、確かにいくつか思い当たる。
 ひとつは、彼女の姉である、シェリー・リッチモンドだ。