Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

 気が付くとマギーが隣に立っていて、餌に群がる鶏たちをやれやれといった感じの顔で眺めている。

 オリヴィアはなんとか立ち上がって、ドレスについた泥を手ではたいた。──落ちないけれど。

 一息つくと、オリヴィアも少し冷静になって、鶏の群れを見ることが出来た。
 意地汚く餌にがっつく彼らは、まるで小悪魔の一軍だ。

「お行儀の悪い子たちだわ」
 つん、と顔を上げてオリヴィアは言ってみた。

「ありゃ鶏だよ、マダム。一列にならんで席について飯を食ったりはしないのさ」
「でも、餌をあげる人に襲い掛かるなんて、獰猛です」
「もっと獰猛な家畜は山ほどいるよ。今にあのトサカ頭が天使に見えてくるからね。誓ってもいい」

 その時……オリヴィアは少し気が立っていて、マギーの言葉を聞き流していた。
 とにかく、どんな形にせよ、鶏に餌をやるという仕事を一つ終えたのだ。
 その満足感の方が大きかった。

 オリヴィアはエドモンドに相応しい妻になるため、立派に女主人の役割を果たしてみせようと決心した──オリヴィアは甘やかされたお嬢さまだったけれど、ジギー・リッチモンドの娘でもある。

 そう簡単に目標を諦めたりはしないのだ。