Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

「ノースウッド伯爵」
 オリヴィアは静かに切り出した。

 エドモンドは答えなかったが、大きな肩がぴくりと張ったのが見えたので、聞こえているらしいことだけは理解できた。オリヴィアは続ける。

「……私はやはり、帰るべきなのでしょうか。理由は……教えていただけないのですか?」

 すると、エドモンドの歩が止まった。
 まるでオリヴィアが先に切り出すのを待っていたかのように、感情に溢れた顔で振り返る。オリヴィアもその場で立ち止まって、息を呑んだ。

「理由は、あなたが分かっているはずだ」
 と、エドモンドは言った。
 オリヴィアは首を横に振る。

「分かりません。確かに、今はまだ刺繍以外の仕事はできませんけど……これから覚えていくことはできます。一日の猶予も下さらないなんて、ひどいわ」
「私があなたを追い出したいのは、仕事が出来ないからではない」
「では……?」
「それは、あなたの過去に関係のあることだ」
「私の過去……」
 オリヴィアは繰り返した。

 ──オリヴィアの過去?
 確かに、オリヴィアは悪戯っ子だった過去がある。

 幼い頃のほんの数年の期間だが、あまり良家の子女として褒められないことをしていた。
 首謀者は大抵、オリヴィアよりも姉のシェリーだったが、父の寝室の隅々にチーズの欠片を置いてネズミの大軍を呼び寄せたり、庭に隠し穴を掘って庭師を怪我させたことがあった。

 しかし……それ以後は……水晶玉のように透明で潔白に生きてきたつもりだった。
 少なくとも、妻として夫に責められる類のことは、一切していないと(セント)ピーターに誓えるだろう。

「……ノースウッド伯爵」
 オリヴィアは厳かに告げた。「私は、あなたの寝室にチーズを置いたりはしません」

「は?」
「違うのですか? これが原因では?」
「何が言いたいのかよく分からないが、少なくともチーズは関係ないはずだ」
「庭に穴を掘ったりもしないと誓います」
「…………」