おまけにこれは──オリヴィアが初めて聞いた彼の言葉だった。声自体は結婚の誓いで聞いていたが、あれは決まった文句を言いあげるだけなので、彼の意志で紡がれた台詞ではない。
 オリヴィアは一瞬怯んだが、まだ諦めるには早い気がした。

「まぁ、謙遜なさらなくてもいいんですのよ! 父の話では北部で最も美しい土地だということでしたわ。どの家も広くて、荒野や森や川があるそうですね」
「家が広いのは、領地のわりに人口が少ないからだ。荒野や森や川は確かにある──ただ、あなたのような都会育ちが美しいと思うかどうかは、分からないな」
「私、緑は好きですわ。自然が大好きなんです」
「失礼だが、あなたの言う自然とは、庭園で彫刻のように整えられている木々のことだろう。私の言う自然とは、少し異なるものだ」

 む、とオリヴィアは唇を一文字に引いた。
 しかし諦めるにはやはりまだ早すぎる。なんといっても、まだ結婚して一日も経っていないのだ。

「少し異なるくらい、大丈夫です。頑張って好きになるわ」

 つい、少し子供っぽい物言いをしてしまったことにすぐ気づいて、オリヴィアは内心しまったと思った。そしてエドモンド・バレットがそれに気付きませんようにと手早く祈った。
 祈りは聞き入れられたらしく、彼は眉一つ動かさない。
 ただ相変わらず、深いグリーンの瞳がオリヴィアを見つめている。

 ノースウッド伯爵エドモンド・バレット卿は、会話を続ける代わりに無言で小窓の外へ視線を戻した。