「『妻』と言ったな」
老執事──ピートの声が後ろから聞こえてきて、オリヴィアははっと現実に意識を戻した。
そうだ、なにを呆けていたのだろう!
自分は実家に帰る準備をしているはずだった。それが、どういう訳か老執事に阻まれて、今はエドモンドに行く手を遮られている。
少しばかり力強い腕に触れられたからといって、ぼうっとしている場合ではなかったのだ。
オリヴィアは慌ててエドモンドの手を振りほどこうと身をよじった。──しかし、ビクともしない。
昔、庭でいたずらしていたところを屈強の門番に捕まって、父の元へ連れて行かれたときも、こんな固い力で腕を掴まれたことがある。しかしエドモンドのそれは、意地悪な門番よりもずっと性質が悪かった。
彼には、どうやら、オリヴィアの腕を強く握っているという意識がないようなのだ。
ピートは言った。
「その『妻』とやらは、実家へ帰ると騒いでおったぞ。お前に侮辱されたと叫びながら、ヒステリーを起こした老婆のように暴れておったわい」
「な……っ! あ、暴れてなんかいません!」
根性なし発言に続き、老婆呼ばわりされ、オリヴィアは真っ赤になった。
しかしエドモンドはそれを軽く無視し、静かな声で答えた。
「だとしても、やはり、あなたにどうこう言う資格はないでしょう。ピート」
「そんな資格がある者はこの世に誰もおらん。死者の中にもな。わしはわしの思ったことを言っているだけだ。わし自身の経験に基づいて……な」
オリヴィアは湧き上がる羞恥心に癇癪を起こしかけていたが、男たち二人の声色が急に冷えだしてきたのを感じて、疑問に混乱しはじめた。
老執事──ピートの声が後ろから聞こえてきて、オリヴィアははっと現実に意識を戻した。
そうだ、なにを呆けていたのだろう!
自分は実家に帰る準備をしているはずだった。それが、どういう訳か老執事に阻まれて、今はエドモンドに行く手を遮られている。
少しばかり力強い腕に触れられたからといって、ぼうっとしている場合ではなかったのだ。
オリヴィアは慌ててエドモンドの手を振りほどこうと身をよじった。──しかし、ビクともしない。
昔、庭でいたずらしていたところを屈強の門番に捕まって、父の元へ連れて行かれたときも、こんな固い力で腕を掴まれたことがある。しかしエドモンドのそれは、意地悪な門番よりもずっと性質が悪かった。
彼には、どうやら、オリヴィアの腕を強く握っているという意識がないようなのだ。
ピートは言った。
「その『妻』とやらは、実家へ帰ると騒いでおったぞ。お前に侮辱されたと叫びながら、ヒステリーを起こした老婆のように暴れておったわい」
「な……っ! あ、暴れてなんかいません!」
根性なし発言に続き、老婆呼ばわりされ、オリヴィアは真っ赤になった。
しかしエドモンドはそれを軽く無視し、静かな声で答えた。
「だとしても、やはり、あなたにどうこう言う資格はないでしょう。ピート」
「そんな資格がある者はこの世に誰もおらん。死者の中にもな。わしはわしの思ったことを言っているだけだ。わし自身の経験に基づいて……な」
オリヴィアは湧き上がる羞恥心に癇癪を起こしかけていたが、男たち二人の声色が急に冷えだしてきたのを感じて、疑問に混乱しはじめた。


