Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

 その声と口調には、軽蔑が混じっていた。
 オリヴィアはカッとなった。

「逃げ出すんじゃありません! ノースウッド伯爵がそうしろと仰ったんです!」
「だからどうした。帰れと言われてのこのこと帰るような脆弱な女では、どのみちノースウッドではやっていけん」
「わ、私は脆弱なんかじゃありません!」
「じゃあ、根性なしとでも呼ぶか。あの石頭がなんと言ったか知らんが、お前さんはここに嫁に来たんだ。バカンスじゃない。そう簡単に諦めてもらっては困る」
「な……っ」

 ますます全身がカッカと熱くなって、オリヴィアの舌は石のように固まり、思うように動かなくなった。
 帰れと言われたり、帰るなと言われたり、この屋敷は滅茶苦茶だ。

 まるで、オリヴィアはバレット家に新しく到着した玩具で、皆が好きなように弄り回してるようじゃないか!

「あ、あなたはノースウッド伯爵が何と言ったかご存知じゃないのよ! 私は背負うことのできないお荷物で、頭の弱い馬鹿娘なのですって! だから帰るんです。私にもプライドがあります!」

 それだけ叫ぶとオリヴィアは老執事に背を向けて、自分の寝室へ戻ろうとした。

 もう、こうなれば、衣装箱は自分の背に担いででも下ろすつもりでいた。それが無理なら、このまま出て行ってしまってもいい──。

 出来るだけ速く寝室に戻ろうとしたオリヴィアだったが、すぐに大きな壁にぶつかって、行く手を遮られた。

 ──壁?