「あ、あの……」
「わしは寝起きの機嫌がよくない。邪魔をするなと言わんかったか……」
言われた覚えはないが、オリヴィアはとりあえず首を縦に振った。
「申し訳ありません、執事さま」
「うむ、まぁいい……ところで何をしておる、娘。キンキン声を出しおって。わしの寝込みを襲いたかったのなら、もっと女らしくやってもらわんと、その気にならんぞ」
「そんな恐れ多いことはしません」
オリヴィアがきっぱり答えると、老執事は皺の寄った目じりをパッと開いて、次の瞬間、背を反らすと屋敷が揺れだしそうな大きな笑い声を上げた。
いかんせん声が低く、しわがれているので、本当に周りの空気が揺れるようだ。
オリヴィアは憮然とした。
しかし、心の奥で確信を深めた──この屋敷は間違いなくおかしい!
大体、どうして執事が主人と同じ階で寝起きをしているのだ。それも、主人──この家の主人であるだけでなく、この地方の伯爵である──エドモンドよりも悠長に朝寝坊ときた。
オリヴィアは気立ての穏やかなお嬢さま育ちではあったが、弱虫ではない。
おろしていた両手をきゅっと結ぶと、老執事と対峙する英気をゆっくりと養った。
「実は、お願いしたいことがあるんです。執事さま」
おごそかな口調でオリヴィアが言うと、老執事は笑いを止めた。
「ほう?」
「私、実家に帰ることにしました。それで、荷物を下ろしたいんですけど、人手が足りませんの。誰かを呼んできていただけませんか」
オリヴィアは持てる限りの威厳をかき集めて、背筋を伸ばしながら言った。
すると途端に、老執事の瞳がギラリと鈍く輝く。
「……いつかそうなるだろうと思っておったが、まさか一日も経たんうちに逃げ出すとはな」
「わしは寝起きの機嫌がよくない。邪魔をするなと言わんかったか……」
言われた覚えはないが、オリヴィアはとりあえず首を縦に振った。
「申し訳ありません、執事さま」
「うむ、まぁいい……ところで何をしておる、娘。キンキン声を出しおって。わしの寝込みを襲いたかったのなら、もっと女らしくやってもらわんと、その気にならんぞ」
「そんな恐れ多いことはしません」
オリヴィアがきっぱり答えると、老執事は皺の寄った目じりをパッと開いて、次の瞬間、背を反らすと屋敷が揺れだしそうな大きな笑い声を上げた。
いかんせん声が低く、しわがれているので、本当に周りの空気が揺れるようだ。
オリヴィアは憮然とした。
しかし、心の奥で確信を深めた──この屋敷は間違いなくおかしい!
大体、どうして執事が主人と同じ階で寝起きをしているのだ。それも、主人──この家の主人であるだけでなく、この地方の伯爵である──エドモンドよりも悠長に朝寝坊ときた。
オリヴィアは気立ての穏やかなお嬢さま育ちではあったが、弱虫ではない。
おろしていた両手をきゅっと結ぶと、老執事と対峙する英気をゆっくりと養った。
「実は、お願いしたいことがあるんです。執事さま」
おごそかな口調でオリヴィアが言うと、老執事は笑いを止めた。
「ほう?」
「私、実家に帰ることにしました。それで、荷物を下ろしたいんですけど、人手が足りませんの。誰かを呼んできていただけませんか」
オリヴィアは持てる限りの威厳をかき集めて、背筋を伸ばしながら言った。
すると途端に、老執事の瞳がギラリと鈍く輝く。
「……いつかそうなるだろうと思っておったが、まさか一日も経たんうちに逃げ出すとはな」


