Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

「とにかく、医者を呼んで調べてからにしたらどうだい? 離婚するのはそれからでも遅くないだろう。それに彼女の言い分も聞かなくちゃ駄目だ」

 ローナンの言葉に、エドモンドは再びむっつりと唇を引いた。
 しかしローナンは続ける。

「なぁ、せっかくノースウッドに嫁さんが来てくれたんだよ。羨ましいくらいだ。そう簡単に手放しちゃいけない」
 すると、
「……どちらにしても、私は、彼女を追い払いたかった」
 呟くように、エドモンドがそう言った。「これはただのきっかけだ。私は彼女を妻にするべきじゃなかった……バレット家の呪いがある限り」

 ローナンは黙った。
 ──兄は、バレット家の呪いを信じている。
 
 ローナン自身は「呪い」という言葉を使うのは嫌いだったが、兄がそれを信じるに至った現実があるのは、理解している。

「それはつまり……」
 ローナンは、真面目な教師のようにもったいぶった口調で、兄に向かって言った。「兄さんはそれなりに彼女へ愛情を感じているわけだ」

 エドモンドは驚いたように眉を上げた。

「まさか」
「そうかい? じゃあ、どうして僕を殴ったりしたんだい?」

 ニヤニヤと口元を緩ませる弟に、エドモンドは渋い顔をした。
 しかしその渋面も、弟の饒舌を妨げはしなかったようだ。

「僕に嫉妬したからだろう? そしてね、兄さん、嫉妬というのは、恋する人間の理性を狂わせるものなんだよ……ちょうど、今の兄さんみたいにね」