Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜


「本当ならあなたは、こんな場所でわたしのような男に抱かれているべきではないのだろう」

 ささやくような低い声で、エドモンドが言った。
 オリヴィアは驚いて彼を見上げた。
 綺麗にそられた髭跡と、男らしい顎の線が目の前にくる。彼からは石鹸の香りがした。それから、大地で生きる男の匂い……干し草、土、銅。

「いいえ」
 オリヴィアは答えながら、エドモンドの頬に片手の指をすべらせた。「わたしはこの場所で、あなたに……あなただけに、抱かれているべきなんです」

 エドモンドはオリヴィアを見下ろして、わずかに微笑んだ。

「あの頃のわたしにもっと忍耐と良識があったならと思う。例えば、こうなる前にあなたを実家に帰すとか、他の男に──いや、これだけは許し難いが、それでも、なんとか、遠ざけるべきだったと」

 エドモンドがこんなことを言ったのは、二人が結ばれて以来、はじめてだった。
 厚くたくましい胸に顔を寄せ、オリヴィアは何も言わずに目を閉じた。やはり、不安なのは彼も同じなのだ。

 それどころかこういうとき、より辛いのは置いていかれる方だ。そんなことは起らないと信じていたいけれど、心細いのはどうしようもない。
 オリヴィアは頭の中でいくつも、緊張している夫を慰める言葉を探した。
 難しかった……しかし、そのとき。


 トン!


 エドモンドは大きく目を見開き、オリヴィアの腹部に当てていた左手に素早く視線を落とした。するとまた、


 トン、トン!


 今度はオリヴィアもそれを強く感じた。
 二人はまるで、それが世界一珍しくて、世界一値打ちのあるとっておきの宝石であるかのように興奮しながら見下ろし、そして目を合わせた。
 オリヴィアは、蹴られた場所がエドモンドの手のひらの真ん中であるのを理解して、思わず満点の笑みを浮かべた。そして……感じたのだ。
 これが答えだと。

「もうすぐですよ」
 と、オリヴィアは宣言して、エドモンドの左手の上に自分の手を重ねた。「もうすぐ、わたし達がこうして寄り添っているすぐ横で、この子が走り回るようになります。きっと元気な子よ」

「ああ……そしてわたしは過保護な父親になるだろう」
 オリヴィアはくすくすと笑った。

「過保護な夫であるだけでは満足できないんですか?」
「その通りだ」

 オリヴィアの頬に手をあて、エドモンドは力強くも優しい口づけを彼女にした。最初は額に、次にまぶたの上をなぞるように、そしてゆっくりと時間をかけて、唇に。


「わたしはあなたを守るためにここにいる。どこにも行かせないから、覚悟するんだな」