決心したのも、それを誘ったのもオリヴィアだったはずなのに、いつのまにかエドモンドの方がこの状況の手綱を握っている……ような気がする。
それでも。
オリヴィアは夫が差し出してくれた力強い腕をとり、玄関口から馬車に向かった。
周囲の群衆のうらやましがるような視線を受けて、はじめて、オリヴィアはなんだか自分がやっと本当の伯爵夫人になったような気がした。
二人が漆喰塗りの乗車口の前まで来ても、中で待っているはずの建前『執事』は伯爵夫妻に扉を開かなかった。
エドモンドはそれを気にする様子もなく、片手でオリヴィアを過保護なくらいにリードしたまま、もう片方の手で扉を開いた。
エドモンドの助けを借りながら、オリヴィアは馬車に乗り込んだ。
続いてすぐ、素早い身のこなしでエドモンドが乗り込む。
オリヴィアは目を凝らしたが、馬車の中は明かりがなく薄暗くて、しばらく暗闇の中を手探りして座席を見つけなければならなかった。
なんとか椅子らしきものを確認し、急いで腰を落ち着けようとすると、突然、どこからともなくしわがれた声が聞こえてきた。
「どこをほっつき回っていたんだ、この阿呆どもが」
本当に呆れているような、ピートの口調だった。
オリヴィアは暗闇に向けてむっと口をとがらせ、この意地悪く融通の利かない老人に反論した。
「わたしはあなたを探していたんです。ところが部屋を間違って、お酒に酔った紳士達に襲われそうになったところを、エドモンドに助けてもらったんです」
「おお、やっと名前を呼び追ったな。次は床入りか」
あからさまな物言いに、オリヴィアは真っ赤になった。
薄闇の中、オリヴィアの隣にエドモンドが座ったのが、気配で伝わってくる。
エドモンドはしばらく口を開かなかったが、慎重にオリヴィアの手を探りつつ、暗闇に目を慣らしているのが分かった。
扉が閉められると、ピートは杖を使って上部の板をドンドンと数回叩いて出発の合図をした。
すぐにがくんと馬車全体が揺れ、馬はゆっくりと前進しはじめる。
オリヴィアはもう、優雅な舞踏会にも、華やかな屋敷にも未練はなかった。ただエドモンドと共にバレット家の屋敷へ帰りたい。そして、二人の愛を確かめ合いたかった。


