雷雲はわずかに遠ざかり、しつこく降り続ける雨だけが夏の夜をどんよりとさせている。
従僕に案内されて玄関口を出たエドモンドとオリヴィアが最初に見たものは、確かに、正面の馬車付け場を堂々と占拠したバレット家の馬車だった。
あまり豪華な仕立ての馬車ではないのに、このときばかりは厚かましいほどの威厳を振りまき、他の馬車の交通を妨げている。
穴があったら入りたいような気分で、オリヴィアはエドモンドの腕の下に隠れるように身を寄せた。
しかし当のエドモンドは、この状況がまるで当然であるかのように、堂々と振る舞っている。
実際エドモンドは、やり方はどうあれ、さっさと自分たちの屋敷に帰れる手はずを整えたピートを讃えてやりたいくらいだった。
理由は、多分、エドモンドのそれとは違うのだろうが、まあいいだろう。
とにかくエドモンドの頭にあるのは、出来るだけ早くこのふざけた屋敷から抜け出し、妻とともに我が家に凱旋することだけだった。その手段などなんでも構わない。
「あのぅ……どうなさいますか」
先の従僕が、恐る恐るといったようすで夫婦を交互に見回しながら聞いた。
「ああ、乗るさ。もう心配しなくていい。わたし達は今すぐ喜んでここから出発する」
エドモンドが答えると、従僕は安堵のあまり踊りだしそうなほどだった。
夫の横で小さくなっていたオリヴィアも、今すぐ出発するとの言葉を聞いて、顔を上げる。するとすぐにエドモンドと目が合って、オリヴィアの心臓はどくんとはぜた。
──エドモンドは愛情深い、優しいといってもいいような微笑みを浮かべ、オリヴィアを見下ろしていた。
このひとは自分を愛していると、確信を持っていえるような表情だった。


