Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜


 そして、二人が再び玄関口に進もうとしたとき──突然、玄関の先から黒いお仕着せを着た若い従僕が慌てた様子で現れ、息も荒く転がるようにエドモンドの前に躍り出てきた。

 かわいそうに、大柄なエドモンドの前に立つと、まだ十五足らずであろう少年は小人のようだ。
 彼は恐る恐るエドモンドを見上げると、あきらかに圧倒されて息を呑んでいた。

「あ、あの、ノースウッド伯爵夫人と、ノースウッド伯爵エドモンド卿であられますか?」

 従僕は怯えていた。
 確かに、今のエドモンドは穏やかとは言いがたい姿ではある。しかし少年が怯んでいる理由はそれ以外にもありそうに見えた。

「いかにも」
 と、エドモンドはオリヴィアの肩を抱いて答えた。

 まるで本当に本物の伯爵夫婦となったようで、オリヴィアはときめきを隠せなかった。
 従僕は当てられたようにモジモジとした。

「実は、その……あなたの執事だとおっしゃる方が、馬車の中に居座って……いえ、馬車の中であなた方を待っているそうなんです」

 エドモンドとオリヴィアは互いを見合わせた。
 従僕が続ける。

「問題は、その、彼は玄関口の真正面から動くのを拒んでいるのです。そのため外の馬車付け場は大混乱です。彼が言うには、えぇっと、あなた方お二人さえ来ればすぐにでも出発するとのことですが……」

 どうか断らないでくれと、従僕は今にも泣き出しそうなつぶらな瞳でノースウッド伯爵夫妻を交互に見回した。
 あの老ギツネ(ピート)め。

 エドモンドの覚悟は決まった。ゆっくりとオリヴィアの片手を口元まで持っていき、その甲に力強い口づけをすると、小さな従僕に向き合った。

「分かった。案内してもらおう──喜んで」