「くそ……」
と、エドモンドは苦々しそうに呟いて、オリヴィアの手に視線を落とした。
柔らかくて白い、なんの苦労も知らなそうな小さな手が、エドモンドの骨っぽい大きな手の中に包まれている。なにか一つ間違えて力を入れすぎてしまえば、簡単に傷つけてしまいそうな華奢な手。
「わたしは……なにを考えていたんだ。先のことを考えもせず……」
自分自身への煮え立つ怒りと、それでも溢れて止まらない情熱とがひしめき合い、エドモンドの胃は焼けるように痛んだ。
これまで、不撓不屈の自制心と、愛する人間を失うかもしれないという本能的な恐怖と、取るに足りない良心とで、なんとかせき止めてきたオリヴィアへの情愛を、彼女を乱暴しようとした男達への怒りに任せて解放してしまったのだ。
まるでそれが当然のようにオリヴィアを抱きかかえ、彼女は自分のものだと、視界に映るすべての男達に誇示して回った。
いったいいつから、そもそもどうして、こんなに重要なことを忘れてしまっていたのか。
エドモンドは荒い息をつき、この一月ずっとそうしてきたように、己おのれの中のけだものと戦い続けなければならないと決心し直し、歯を食いしばった。
なじみのない、しかし、いつの間にか自分の一部になっていた幸福感を、今すぐ遠くに押しやらなければならなかった。
そうして、エドモンドがオリヴィアの手を離そうとすると、オリヴィアはあわてて首を横に振りつつ言った。
「違います、ノースウッド伯爵……いえ、エドモンド、聞いてください」
柔らかい妻の声で呟かれた自分の名前は、まるで天国から漏れてくる賛美歌のようにエドモンドの耳に響いた。
これが初めてだった──これほど幸せなのも、これほど苦しいのも。
「あなたのための馬車を探そう。わたしはこの屋敷に残る──」
「誤解しないでください。わたしは、『バレット家の呪い』が本当はないかもしれないという話を、ピートに聞いたんです。それを伝えたかったの」
オリヴィアの声は緊張に震えていた。
大きく開いた襟ぐりから、禁断の果実のごとく豊かな乳房がのぞいていて、早まった息に合わせて大きく上下しているのが見える。
エドモンドはいよいよ歯ぎしりした。
「わたしの愚かな衝動をあまり煽らないことだ、マダム」
「いいえ、本当の話なんです! お願いだから、わたしを離さないで。どんな理由があっても、たとえどれだけ深い呪いがあっても、二人なら乗り越えられるわ。そうでしょう? しかもその呪いは、本当はないかもしれないんです」
潤んだ大きい水色の瞳に懇願されて、エドモンドは一瞬、今自分がどこにいて、どこが床でどこが天井なのか分からなくなるような目眩を感じた。
両手でエドモンドの手をぎゅっと握ったオリヴィアは、そのままゆっくりと自分の胸元までその手を運んだ。
エドモンドの手が、そっとではあるが、オリヴィアの胸に触れる。
全身が炎に包まれたように熱くなり、エドモンドの中で何かが音を立てて崩れていった。
自制心、忍耐、我慢。
そんなような名前のものたちが、跡形もないくらい粉々になっていった。
「わたしをあなたの妻にしてください。本当の妻に」


