そうだ……ピート!
そもそもオリヴィアは、あの人でなしの老執事を捜してファレル家の屋敷を一人でうろうろしていたせいで、恐ろしい危険に巻き込まれたのだ。
結果的にエドモンドが助けに来てくれたからいいものの、そうでなければ今頃オリヴィアは、屈辱の中で舌を噛み切っていたかもしれない……。
それを思い出すと、オリヴィアの胸は急に暑苦しくなった。
あの老執事は今もきっとどこかにこそこそ隠れているか、それともオリヴィア達のことなどすっかり忘れて、パンチに酔った若いレディたちを誘惑しようとしているに違いない。
オリヴィアは繋いでいるのとは別の手でエドモンドの腕に触れて、彼の注意をひこうとした。
人だかりを進むのに集中していたエドモンドが、すぐにオリヴィアに振り向き、心配げに妻を見下ろす。
「どうした、オリヴィア?」
エドモンドの低い声がオリヴィアの耳に魅惑的に響く。
オリヴィアはつい、ピートのことなど口にせず、さっさと馬車を用意してしかるべき場所へ帰ってしまうのも魅力的かもしれないと、考えてしまった。
しかし──あの老執事は、エドモンドとローナンの祖父でもある。
夫婦が馬車を使ってしまっては、帰る手段がなくなって困るかもしれない。まあ、あの老人が困っている姿はあまり想像できないし、ローナンを見つければ二人で貸し馬車を使うことができるのだろうけれど。
「あの、ピートはどこかと思って……。わたし達が馬車を使ってしまっては、困るんじゃないかしら」
するとエドモンドは、一瞬驚いたような顔をした。
「彼なら自分でなんとかするだろう。いざとなれば上階に部屋が用意されているし、どちらにしてもローナンがいる」
とまで言って、のぞき込むようにオリヴィアに顔を近づけた。「他にもなにか気になることが、マダム?」
急に、オリヴィアの胸は高鳴る心臓を収めておくには小さすぎるような気がしてきた。
深い緑の瞳に見つめられて、オリヴィアの鼓動はさらに速度を増して、痛いくらいだった。
うまく言葉を操れなくなっている。
「あの……わたし、実はピートから聞いたことがあるんです。バレット家の、あの、」
オリヴィアのあいまいな説明を、エドモンドは眉間に皺をよせながら注意深く聞こうとしてくれていた。
オリヴィアは懸命に、どう言い表すべきかと考えてみた。
もしオリヴィアの理解が正しければ、ピートの隠している秘密は、これから二人が行おうとしている愛の営みをずっと素敵なものにしてくれる。
はずだ。


