二人は一階の大広間にたどり着いたが、そこには今までの華やかな舞踏会の面影はほとんどなくなっていた。
それもそのはず、屋敷の主人であり舞踏会の開催者であるヒューバートが火だるまになって二階の窓から落下し、腕の骨を折ったのを目撃した後で、のんきに踊り続けられる者はほとんどいなかったからだ。
大広間、そして玄関口は、帰りを急ぐ紳士淑女でごった返していた。
さらに都合の悪いことに、彼ら貴族には馬車や従者や装飾品といった余計なものがついて回っている。
混乱はさらに混乱を呼び、降りつける雨はいっそう彼らを不機嫌にさせていた。男性たちの怒鳴り声や、女性の神経質な金切り声がそこここから上がっている。
「どうしましょうか……馬車を呼ぶのは時間がかかりそうですね」
オリヴィアはうかがうように夫の顔を見上げた。
エドモンドはなにかを考えているようだったが、今までの緊張感はすっかり解けているように見える。
ただ、思慮深い目で玄関に入り乱れる騒動をしばらく眺めたあと、口元に柔らかい微笑みさえ浮かべて、オリヴィアを見下ろした。
「このまま何もなかったように、上の部屋に引っ込むのも悪くない案かもしれないな、マダム?」
悪戯を企む少年のようなエドモンドの口調に、オリヴィアはまた頬を赤らめた。
この新生エドモンドは……どうも、オリヴィアが夢に見ていたよりずっと……ずっと、なんだろう?
頑なだった殻がむけて、厳しく険しいノースウッド伯爵の中から、とびきり優しくて甘い恋人が現れたようだった。
「いや……やめておこう。この腐った連中と同じ屋根の下であなたと愛を交わす気はない。わたし達には別の場所が必要だ」
愛を、
交わす。
誰と、誰が?
その答えが分かったとき、オリヴィアの心臓はありえないほどに高鳴った。喉から出てきてしまわないのが不思議なくらいの強さで脈打ち、期待と不安を訴えるオリヴィアの心臓……。
エドモンドは情熱的な瞳でオリヴィアを見つめている。
なにがしかの答えを求められているような気がして、オリヴィアは小さくうなづいた。
今夜。これから、二人は永遠になる。
それが何処であろうとも。


