「ノ……」
オリヴィアが口を開こうとすると、エドモンドは急に人差し指を彼女の唇に当てて、シッと黙るように告げる仕草をした。
「わたしが今どんな思いでここに立っているか、あなたには想像もつかないだろう……」
そう言って、心配そうにオリヴィアの頬に指の背を滑らせた。「奴らが言っていたことは本当なのだろうか……その、行為が未遂だということは……?」
一瞬、何のことを言われているのか分からなくて、オリヴィアは二度大きな瞳を瞬いた。
するとエドモンドは傷ついたような顔をした。
「もちろん、何が起こったのであれ、わたしの決心は変わらない。あなたはわたしの妻だ」
やっと意味が分かり、オリヴィアは慌てて首を振った。
「ち、違います。本当に……なにも、なにもなかったんです。その前にあなたが助けに来てくれたから——わたしは無事で」
しかし、すぐに、ベルフィールド子爵が覆い被さってきた時の恐怖と嫌悪感が思い出されて、オリヴィアは身震いした。
もしエドモンドが来てくれなかったら。
来てくれるのがもっと遅くなっていたら。
オリヴィアは舌を噛み切って死ぬ覚悟でいたのだ。
その恐怖を思い出すのと、今、エドモンドの腕に包まれている安堵との落差に、オリヴィアは目頭が熱くなってくるのを止められなくなった。
「もし……もし、間に合わなかったら、死ぬつもりでいたんです。そうすれば、少なくとも、あなたの妻のままでいられると思って」
オリヴィアがこう言ったときにエドモンドが見せた表情を、彼女は生涯忘れることができないだろう。
驚きと怒りと、そして、深い後悔のようなものが混ぜこぜになって、今にも爆発しそうな激情を寸前で押さえているような顔……。
オリヴィアは自分の台詞をすぐに後悔したが、それでエドモンドを止められるわけでもない。
エドモンドは憑かれたようにオリヴィアを強く抱きしめ、彼女の首元に自分の顔をうずめて、しばらく動かなかった。その抱擁はまるで甘い牢獄のようで、オリヴィアは身動き一つできなかった。
彼からは夏の湖畔のような湿っぽい匂いがした。
オリヴィアは瞳を閉じ、ガヤガヤと人々が近づいてくる騒音を遠くに聞きながら、エドモンドの大きな胸と熱い鼓動にその身を預けた。


