「ヒッ……」
ベルフィールド子爵の泣き出しそうな声が聞こえて、オリヴィアは恐る恐るゆっくりと顔を上げた。
オリヴィアが目をつぶっていたたった数秒の間に何が起ったのか、こんな修羅場の経験のない彼女には全く見当がつかなかったが——結論からいうと、攻撃者だったはずのヒューバートは情けなく床にひっくり返っており、ベルフィールドは壁に背を付けたまま蒼白になっている。
その二人の間に、長身のエドモンドの影がまるで王者のような迫力で両足を広げて立ち塞がっていた。
火かき棒は、あり得ない角度に曲がっており、床に突き刺さっている。
ああ!
オリヴィアはあまりの急な展開に混乱していたが、同時に、こみ上げてくるエドモンドへの愛情を止めることができなくなっていた。
オリヴィアは今すぐ彼に抱きついてしまいたかった。
今すぐ。
早くこんな暗い部屋から抜け出して、二人きりになれるどこかへ隠れてしまえればいいのに……。
そして、まるで、そんなオリヴィアの思いを読み取ったかのように、エドモンドはゆっくりと彼女の方を振り返った。
二人の視線がからみ合う。
エドモンドが短く息を止め、オリヴィアの全身を粘りつくように見つめているのが、数本のロウソクの明かりだけの中でもはっきりと分かった。
もし目線でものが燃やせるとしたら、きっとオリヴィアは一瞬で焼き尽されてしまうだろう。
そのくらいエドモンドの緑の瞳は一途だった。
オリヴィアの心臓がばくばくと鳴りだした。
なにか。
なにか。今、かりそめだった二人の関係が永遠に変わるようななにかが、起ころうとしているのだ……。


