その瞬間、オリヴィアは扉が破られる鋭い音で我に返った。
ノースウッドで聞いた激しい雷にそっくりな、周囲を揺るがす衝撃音だった。続いてパラパラと細かい木の破片が落ちるのが聞こえて、男達の驚きの悲鳴が上がった。
「エ、エドモンド!」
ヒューバートが狼狽した声で叫んだ。
エドモンド! その名前を聞いた瞬間、オリヴィアの瞳に安堵の涙が浮かびはじめた。ああ……やはり彼は来てくれたのだ!
オリヴィアに伸し掛っていた男は横にどいて、侵入者を確認するために後ろを振り返っていた。
—−入り口にあったはずの扉は消えている。
かわりに、その入り口を塞ぐように立つ、大きく威圧的な影……。
ノースウッド伯爵エドモンド・バレット卿の、憎悪に満ちた緑の瞳がぎらりと輝いてこちらを見ていた。
「待ってくれ、その……少し落ち着いてくれ。これは君が思っているようなことではなな……」
ヒューバートは慌てて喋りはじめたが、あまりうまく舌が回っていないようで、最後が妙なアクセントになっている。
安堵のあまり、オリヴィアは倒れたままの格好でポロポロと泣きはじめた。
きっとエドモンドは、この二人の愚かな男たちにちょっとした張り手を食らわし、物語の王子のようにオリヴィアを横抱きにして助け出してくれるのだ。
ああ、神さま、ありがとうございます。
オリヴィアは酔っぱらっていた男の手を押しのけ、なんとか起き上がろうとした。
しかし、柔らかいベッドから苦労して上半身を起こしたオリヴィアの目に、信じられない光景が飛び込んできた。
エドモンドはずぶ濡れで、王子はおろか、地獄の門番でさえこれほど獰猛な目つきをしていないだろうというほど、禍々しい姿でこちらを見下ろしていたのだ。
動揺したオリヴィアの姿を、エドモンドの視線がとらえた。
乱れたドレスの襟から今にもこぼれそうになっている妻の胸を目にして、エドモンドの怒りはすぐさま沸点を通り越し、もはや爆発寸前にまで燃え上がった。
オリヴィアの水色の瞳からは涙が流れている。
なんということだ。
なんということを——。


