「少しの辛抱さ。君も今に天国を見るだろう……」
酔っぱらった男の顔が目の前に迫ってきて、オリヴィアは両方の瞳を大きく見開いて、くぐもった抵抗の悲鳴をあげた。
しかし叫びは男の脂ぎった手にさえぎられ、部屋の外まで届くことはなかった。
オリヴィアは力の限りの抵抗を試みて、必死に身体をよじった。
——こんなところで、こんなふうに。
愛してもいない、それどころか嫌悪感しか感じない男に、乱暴に迫られているなんて。
(どうしてこんなことに……)
エドモンドはきっと、ここからそう離れていない場所にいる。
オリヴィアを探し出そうとしてくれているのか、それともそんなことは早々に諦めて舞踏会の続きを楽しんでいるのかどうかは謎だが、それでも、どこか近くにいるのだ。
オリヴィアは手足をばたつかせ、どうにかして逃げようとした。
窮鼠、猫をかむという。
オリヴィアは必死になって、男の手に噛み付いてやろうと足掻あがいたが、それは役立たずな努力に終わった。
男の力は強く、おぞましいことに、この手の乱暴ごとに慣れているようだった。
それでもオリヴィアが死に物狂いで暴れていると、男は少しずつ手こずり始めた。
「ちっ、おい、ヒューバート、少し手伝ってくれてもいいだろう!」
男が舌打ちしながらそう叫ぶと、ヒューバートは「あ、ああ……」と気の抜けたような返事をして、のろのろとオリヴィアの腕を押さえるためにベッドに近づいてきた。
「んーっ、んんーー!」
オリヴィアの叫びは、蚊の鳴くような空しい音しか出さない。
「さあ、お嬢さん、わたしたちにその可愛い胸を見せておくれ……」
男はだらしなく涎よだれを口の端に垂らしながら、呟くように言った。ヒューバートが興奮に息を呑むのが、オリヴィアにも聞こえた。
もう、だめだ。
こんな不埒なろくでなし共に乱暴されるくらいなら——と、オリヴィアは決心した。
舌を噛み切ってやる。きっと相当に苦しいだろうし、屋敷に残してきた菜園を思うと心が痛んだけれど。きっとマギーがどうにかしてくれるだろう。
そして、エドモンド……。
オリヴィアの夫。神に誓った生涯の伴侶。カドリールの後に受けた熱い口づけ。二人で森の木の下で雨宿りしたこともあった……。
彼はどう思うだろう。
苦しむだろうか……悲しい思いをさせてしまうだろうか。
でも、それでも、


