エドモンドは、胸元をなでるように這うガブリエラの手を左手で掴み、彼女を自分の身体から引きはがした。腕をひねられた痛みで、ガブリエラは信じられない、というように目を見開いた。
「私は妻を捜している」
オリヴィアを。
オリヴィアだけを。
エドモンドの瞳は、その欲望を明々白々と映し出していた。
「——それ以外に欲しいものは一つもない。なにひとつ」
ガブリエラの表情は、驚き、傷ついたように見えた。
——彼女は誰かに否定されることに慣れていない。
廊下を照らすために設けられた壁際の燭台に、橙色の炎を揺らすろうそくが何本も立っていた。ガブリエラの蒼白の顔が、その明かりに照らし出され、醜くゆがむ。
「ま……まあ……なんて……」
悔しさに、ガブリエラの声は小刻みに震えている。
しかし、エドモンドは、平坦で低い声で続けた。
「生まれについても、あまり幻想を持つべきではない。私の6代前の先祖は凶暴なハイランダーの侵略者だったそうだ。ノースウッドの土地を奪い、領主におさまった」
エドモンドの口元がわずかながらに上がり、まさに野蛮なハイランダーの子孫のごとく、残酷な笑みを浮かべた。
「まさに強欲な成金の娘と結ばれるべき男だ」
彼の声は確信に満ちていた。
彼の瞳は欲望に燃えていた。
それを受けて、ガブリエラは生まれてこのかた感じたことのないほどの激しい嫉妬に燃え上がった。
「わたくしを侮辱なさるのね」
鋭く刺々しい声で、ガブリエラは言った。
「とんでもない。私はあなたの淑女としての名誉を守ろうとしているだけだ」
エドモンドが静かにそう言うと、ガブリエラは急にヒステリックで甲高い笑い声を上げた。
「それこそがまさに、わたしを侮辱するということよ!」
もう、彼女を相手にしている忍耐がなくなったエドモンドは、そのままガブリエラの横をすり抜けて前へ進もうとした。
しかし、
ガブリエラの意味ありげなささやきが、エドモンドの足を止める。
「奥さまの行方を探しているんじゃなくて? ノースウッド伯爵」
エドモンドは身体を固く直立させ、ゆっくりと肩越しにガブリエラを振り返った。ガブリエラの瞳は、残酷な策略をたくらむ策士そのものだった。
「わたしなら、彼女がどこで何をしているか知っているわ。ええ、よく知っていますとも……」
そして、相手の返事を待たず、ガブリエラは勝ち誇ったように言葉を重ねた。
「だって、あのあばずれは今頃わたしの兄と一緒にいるはずですもの」


